資材置場

いまだ作品の形にならぬ文章を一時保管する場です。

ド・ブロイの異脳狩人/Take1-2

 校門の周囲に溜まって熱い視線をくれるクラスメイトたちへ、さりげない微笑を配り、背筋をピンと伸ばして一声。
「おはよう、みんな」
 反応はさまざまだ。舞い上がってうわずった挨拶を返してくる男子。よそ行きの顔で応える女子。照れて無言でそそくさ立ち去る者が数名。露骨な侮蔑と羨望の色を全身に現しながら無視を装うものも幾ばくか。だが、誰にも無関心は許さない。K.K.の立ち居振る舞いには、それだけの迫力があった。
 生徒たちの波を割って校庭に入ると、いつものメンバーがその歩みに合流してきた。|宇航《ユーハウ》――長身の男子、成績も良くて運動もできる、そのうえ金持ち、当然モテる。|梓《アズサ》――抜群のスタイルを誇る美女、人当たりが良くて誰にでも愛される、そしてもちろん、背が高い。やめてくれ。左右を挟んで立たないでくれ。こう並ばれると、ちんちくりんのK.K.は、さながら古代の文献にある“捕らえられた|宇宙人《リトル・グレイ》”だ。
「おはよう、《《クリス》》」
「おはよう、アズサ」
「今日もモテるね」
「うるさいよ、|宇航《ユーハウ》」
 知り合いは多いが、K.K.を本名で“クリスティーン・|姫《ジィ》”と呼ぶのはこの二人だけだ。その距離感……というよりも、K.K.の心情を慮って、努めて気楽に振る舞ってくれるその気遣いが、嬉しくもあり、痒くもあり。
「ところで|宇航《ユーハウ》。後でよろしく」
「またー? 宿題くらいたまには自分でやったらどう?」
「やるつもりだったんだよなーっ。なんで出来なかったかなーっ。昨日の夜何してたっけーちょっと記憶がーあー」
プレッツェル、おごりな」
「足元見やがって……あれ? アズサ、バイオリンケース? 今日音楽あったっけ!?」
「ないない。間違えて持ってきちゃっただけ。水曜かと思って」
「マヌケー。今日、金曜よ」
「月曜だよ」
 と|宇航《ユーハウ》。そして3人で、ケラケラ笑う。
 これが舞台のお芝居なら、それでもいいかとK.K.は思う。自分が|王神《K.K.》であるがゆえに、ありのままの関係は望むべくもない。だが、心地よく楽しく心躍る時が過ごせるなら、一体何の問題があろうか?
 たとえこの場の全てが、偽りに過ぎなかったとしても。