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資材置場

いまだ作品の形にならぬ文章を一時保管する場です。

ザナリスの昏き竜姫 1-1

1 檻(ハチノス)


 ついに盗んで来てしまった。あの娘を救い出すためのカギ。
 僕は最前からベッドの脇にひざまずき、身をくの字に折って震えている。今になって猛烈な怯えとためらいが大量の脂汗もろとも襲ってきた。だが、もう遅い。僕はやった。やってしまった。後悔は先に立たず――ならば、後悔が身体を凍りつかせてしまうより早く、やるべきことをやりきればいい。
 他の〈個室(セル)〉の連中に見られなかっただろうか? おそらく大丈夫だ。第三〈楽園(ハチノス)〉はとうに寝静まり、お隣さん(ジョニー)も、斜向かい(スタルカス)も、勤勉の権化たる委員長様(ダンクレア)でさえ、今は深い夢の中にいるはずだ。
 目覚めているのはこの僕だけ。
 ツカサ・7783だけなんだ。
「やらなきゃ」
 聞く者もいないのに、わざと口に出した。一度口にしてしまえば、心と身体が言葉に引っ張られることを知っていたからだ。できることならこのまま眠りについて、なんの代わり映えもしないいつもどおりの朝(あした)を迎えたい――そんな考えになびきかけていることに気づいたからだ。
「やるんだ。
 あの娘を、ジェットを、僕が救うんだ!」

  *

 いきなりで申し訳ない。少し説明が必要だろうね。伝えられる情報は伝えておこう。
 といっても、この〈楽園(ハチノス)〉について僕から言えることは思いのほか少ない。なぜならば、僕は生まれてこのかた故郷を出たことがないから。灯台もと暗し、ではないけれど、ある場所の特質は、そこの住人には案外分からなかったりするものらしい。よその土地を見てみなければ、何が普通で何が特別なのかも分からないからね。去年、ちょっとした用事で第四〈楽園(ハチノス)〉を訪れたときは、第三とのルールの違いに驚いたものだ。
 対比させて説明しようにも、外の〈砂漠(ウェイスト)〉のことは、残念ながらほとんど何も知らない。もちろん教科書の記述は暗記してる。三期連続で期末試験にでたから、さすがにね。曰く、そこはあらゆる悪徳と荒廃に覆われた呪いの地である。邪悪な妖魔と醜怪な汚泥を除けば、そこに根付くものはなし。千の千倍を千倍したより遠くまで、草木ひとつ生えぬ不毛の砂漠が広がっているのだ、と。
 なんで一口に十億って言わないんですか? あと単位はパーリエ? パルナ? うっかり先生にそんな質問をしてしまって、半月の特別教室行きになったのは、16年の人生でも最悪の思い出だ。
 ともあれ僕たちは――と言うのはつまり、少なくとも1700人余りの〈生徒(セルウス)〉たちは、そんな風にして毎日毎日、教えられることを覚え、覚えては忘れ、忘れては罰されて、最悪とは言えぬまでも好ましくはない日常を、最良とは言えぬまでも耐えられなくはない方法で、それなりに凌いできたのだった。