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資材置場

いまだ作品の形にならぬ文章を一時保管する場です。

“ここへ、必ず”4

 案の定。高速船が波を掻き分けるかのような音が聞こえ(船? 波? 砂漠で?)その者たちが姿を表した。黒き甲冑の騎士ども。しかし彼らがまたがるは、馬ならぬ、鮫。砂の中を自在に泳ぎ、砂漠に迷い込んだ獲物を食い荒らす、魔獣砂鮫(スナミヅチ)だ。
 二騎の砂鮫騎士が、獲物を見つけて気勢を上げる。ようやく敵の接近に気づいたのか、防塵服の人物は転がっていた剣を拾い上げ、闇雲に振り回してみせる。足元は覚束なく、手元は剣に振り回され、まるで見てはいられない。完全な素人。騎士どもは今のところ警戒して遠巻きに様子を見ているが、おそらく、相手の腕前のほどはとうに見抜いているだろう。ほどなく狩りが始まる。ひとたまりもあるまい。
 それがどうした。
 ヴィッシュは丘の手前に引込み、座り込んだ。ひとたまりもあるまい、が、体を張って助ける理由などない。彼が様子を見に来たのは、そう、誰かが襲われて死んだなら、その物資を頂戴できるかもと思ったまでだ。事実、食料も尽きたし水も無い。補給は必要だ。だから来たのだ。
 そうなのだ。
 そう考えた途端、ひとりでに体が動いた。足を忍ばせ、砂丘を横手に避けて、素早く砂鮫騎士の背後に回り込む。剣を抜いた。敵は気づかぬ。まだ気づかぬ。とうとう真後ろに肉薄してしまった。
 だから、斬った。鎧の隙間を狙って、一太刀。驚きこちらを振り向くもう一人に、首を貫く無造作な一突き。先手さえ取ってしまえば難しくはない。戦争中は毎日やっていたことだ。
 なんで助けてしまったのか、自分でもわからぬ。ただ、ボンヤリと残る記憶では、こう考えていた。「そう、物資が欲しかったのだ。これで言い訳が立つ」
 騎士どもが倒れ、砂鮫共が戸惑いながら何処かへ逃げ去る中、ヴィッシュはとぼとぼと襲われていた人物の方に寄って行った。随分としょぼくれた勝利の凱旋であったが、とても、喜ぶ気にはなれぬのだから仕方ない。
「あの」
 防塵服を着たままの人物が、布越しのくぐもった声を上げた。それで、相手が女だとようやく気づいた。ヴィッシュは頭にカッときて、思わず、指を突きつけ、問われもしないのにまくし立てた。
「お前を助けたわけじゃない!」
 そしてソリから散らばった荷物を拾い上げ、
「水と食い物が欲しかったんだ」
「えっと?」
 女は首を傾げていたが、やがて何やら納得して、小さく項いた。
「ありがとうございます!」
 ヴィッシュはそっぽを向くしかなかった。