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資材置場

いまだ作品の形にならぬ文章を一時保管する場です。

“ここへ、必ず”3

 ヴィッシュはふと、足を止めた。砂嵐と暗闇の向こう側に、人の声じみた音を聞いた気がしたのだ。
 じっと耳をそばだてる。と、聞こえた。女の悲鳴。ついで男の怒号がいくつかと、ひときわ甲高い剣戟の響き。耳慣れた戦場の声だ。
 ヴィッシュは吸い込まれるように音のする方へ寄って行った。なぜかは分からぬ。生きる者などないはずの砂漠で誰が戦っているのか、そこに興味を引かれでもしただろうか。危険があるなら我が目で確かめておくべし、と判断したろうか。あるいはただ、底知れぬ孤独の闇に飽いて、人恋しくなってしまったのだろうか。
 いずれにせよ、砂の丘をふたつ乗り越え、辿り着いた先で見たものは、砂の上に転がった松明の、ちろちろと蛇の舌のごとく揺らめく明かりに照らされて凄惨さを増した、虐殺のあとであった。
 四五人は乗れるであろう車が――いや、砂漠に車はあるまい、大きなソリであろう――横転し、積んでいた荷物をぶちまけている。その側には、槍を突き立てられて事切れたラクダが2頭。これまた串刺しになって転がった人間が二人。
 いや、もうひとり。防塵服に顔まで包んだ人間が、倒れたラクダの下から這い出してきた。悠長に松明を拾い上げ、当たりを照らしてソリや連れたちの様子を確かめているようだ。
 ち、とヴィッシュは舌打ちした。こんなところでどんな敵に襲われたか知らないが、あれではわざわざ知らせているようなものだ。「戻ってこい、まだ狩り残しの獲物が残っているぞ」……と。