2016-06-03から1日間の記事一覧
一時、ページを繰る手を止めて、彼は窓の光景に見入った。美しい、と思うことさえ忘れていた。日中には白亜の煌めきを見せた尖塔たちが、赤銅色の空に溶け込んでいく。その背後には忌々しくも壮大な高壁。そしてさらに向こう側、何処までも果てしなく広がる…
1 外(ウェイスト)からの少年 ――ついに盗んで来てしまった。あの娘を救い出すためのカギ。 レイは最前からベッドの脇にひざまずき、身をくの字に折って震えている。今になって猛烈な怯えとためらいが大量の脂汗もろとも襲ってきた。だが、もう遅い。彼はや…