資材置場

いまだ作品の形にならぬ文章を一時保管する場です。

プロットの例

「最後の戦い」プロットの例


剣士がさびしい一人暮らしの中で死にかかっていた
病に倒れたのだ

長くはもつまい
今日か、明日か……

ああ、俺の人生は何だったのだ?
剣の腕をひたすら磨き
しかし報われることもなく
名を為すこともできずに死んでいく
俺の一生は、全く無駄なものだった……

やめよう。
考えても詮無きこと。
いまはただ、心残りなく逝こう……

いや
あった!
ひとつだけ、心残りが
あの女 緋女
類まれなる剣士

闘いたい。あの女と
一介の剣士として、全身全霊
己のすべてを込めて

病床から起き上がり、杖をつきながらヴィッシュの家を目指す


剣士の過去について回想

幼い頃から運動の得意な子だった
あるとき、ふらりと村に現れた騎士に見込まれ
侍従となり、剣の手ほどきを受けた
その騎士は達人だったのだ
めきめきと力をつけ
騎士の取り立てで国軍に入った

魔王軍とも戦った
しかし剣の道ひとすじで
人付き合いの悪い彼は、軍の中で嫌われ
ついに退官してしまった

そして後始末人になった
己の剣を一回いくらで売る商売


要領悪くて稼げない



ヴィッシュの家に来たが、あいにくどこそこ村に行っていて不在
ということを、隣のおせっかいおばちゃんから聞く

明日には戻るだろうけど

明日までこの体がもつかどうか……

自分から出向こうと決意する


その村は、第二ベンズバレンの西にあり
徒歩で一日ほどの距離


途中、疲れて動けなくなったり

魔物に出会ったり、

悪い奴に絡まれたりする

その苦難を乗り越え
人々の親切を受けて
しかし、ここに留まっていなさいという好意は袖にして
彼はひたすら歩く
ふらつきながら、杖をつきながら、
しかし止むことなく

夕暮れ時
ついに緋女の元へたどり着いた時には、
満身創痍。死にかかっていた。

ヴィッシュたちは仕事を終えて、戻ってくる途中で剣士に出くわしたのだ


「あれ、お前は」
ヴィッシュが気付く。
「どうしたんだ、こんなところで」

「緋女殿! 真剣勝負を所望する!」
迫力の声

「馬鹿言うな、お前、体が……」
手を差し出してヴィッシュを止める緋女

「いいよ」
「来い」



激しい戦い
緋女さえ怯ませる

ゾッとするヴィッシュとカジュ
まさか、緋女が……苦戦している!?

日が沈む

だが、最後は緋女が勝つ
倒れる剣士
緋女、膝枕をしてやる
日も沈み、薄暮に包まれた穏やかな景色の中で、二人の姿だけが、いやに際立って見えた
さながら教会の壁を飾る、宗教画のように
「楽しかった」「お前、強かったよ」
言葉もなく、息絶える剣士
しかしその死に顔には、にこりと、暖かな笑みが浮かんでいた

彼の生涯で一度足りとも浮かべた試しのない、心からの笑顔であった


おわり

焦がし砂糖は甘くて苦い。 冒頭試し読み

"S.o.S.;The Origins' World Tale"
EPISODE in 1313 #A10"Not Only Sweet..."/The Sword of Wish


 この胸のときめきは、船着広場の賑わいのせいでも、昼下がりの陽気のせいでもない。万年仏頂面のカジュでさえ、もう認めざるを得なかった。
 ――ボク、テンション上がってるんだ。
 港湾区中央船着場前、通称“脱出広場”。内海全域から船が集まる一大港湾都市の中心となる発着場である。世界最大の港と言っても過言ではないこの場所は、いつも溢れんばかりの人波でごったがえしている。
 休憩を終え仕事場に戻る荷担ぎ夫。遅めの昼餉に向かう日焼けした水夫。慌ただしく駆け回る丁稚坊主に、威勢のいい物売り娘の掛け声。仕事を求め彷徨う日雇い、獲物を探して目を光らせるスリ、ポン引きも数しれず。馬車を引く商人は馬の機嫌を損ねて四苦八苦、旅行者たちは物乞いどもにたかられて、娼館の小娘は姉貴分に頼まれた買い物を胸いっぱいに抱えて帰る。
 その賑わいは、さながら百万の楽器が一堂に会する大演奏会のごとくであった。といってもそこに指揮者はいない。居合わせた無数の人々が、思い思いの音を出し、調子っぱずれにがなりたて、しかしそれらが重なるうちに、不思議とひとつのメロディへ収束していく。混沌の織りなす芸術――当人たちに、その一端を担っている自覚はあるまいが。
 この人混みから特定の人物を探す、となれば、これは至難の業である。が、先ほどからずっと、カジュはその困難に挑み続けているのであった。
 広場の片隅に、脚を広げて立っているのは、美貌の女剣士、緋女。カジュは緋女の肩を踏み台にして、広場全体にぎらぎらと目を光らせていた。特に注目すべきは旅行者だ。ずっと会いたいと思っていた、とある組織の派遣団が、今日、ここに到着するはずなのである。
「どお? いたー?」
「んー……。」
 緋女がポカンと口開けて上を向くが、カジュは低く唸るばかりだ。何しろ通行人は星の数ほどいる。そのうえ絶え間なく動き続けているのだ。そう容易くは見つかるまい。
 もうかれこれ1時間あまりはこうしているのだ。緋女はそろそろ飽き初めていたが、頭上のカジュは退屈するそぶりさえ見せていない。何が彼女をこうまで駆り立てるのか、緋女にはさっぱり理解できないたのだが――
 と、不意にカジュが声を上げた。
「あ。いた。」
「え、マジ?」
 ひょい、と地面に飛び降りて、カジュは脇目も振らず走り出した。小さな身体を最大限に活かして人混みを潜り抜け、何度か人とぶつかりながらも、目指すところにたどり着く。
 そこにいたのは、雑然とした港町には不釣り合いなほど落ち着いた物腰の、五人の紳士たちであった。
 彼らはデュイル風の優雅な衣服に身を包み、港の風景を物珍しげに見回していた。上流階級の人間なのはひと目で分かる。しかし貴族ではない。引き連れた下男はわずかに二人。荷物の量といい装いといい、貴族にしては質素に過ぎる。
 その中のひとり、誰よりも柔和な笑みを浮かべた紳士が、まことに楽しそうに連れに語りかけていた。
「ごらん諸君、この街並みを。たった10年でこの変わりよう。都市計画の緻密さと、それを具現化した法整備の周到さには舌を巻くばかりだよ。まったく見事なものだねえ」
 その話し声は耳心地良い演説のよう。それを聞きながら、カジュはぼんやり立ちすくんでいた。自分でも信じられない。足が動かない――《《緊張している》》。物怖じなどしたためしがない、普段なら王族相手でさえ自分のペースを崩さない、あのカジュがだ。
 あの紳士に声をかけたかった。そのために来たのだ。何年もずっとこんなチャンスを待っていたのだ。それなのに――
 そのとき。
 どん。
 と、背中に何かがぶつかった。我に返って振り向くと、後ろには緋女、頼れる相棒。彼女の手のひらがカジュの背を押してくれたのだ。何も言葉はなかったが、視線を交わしただけで思いは伝わってきた。曰く、「がんばれ。ずっと待ってたんだろ」と。
 カジュは無言でうなずくと、腹の下にグッと力を込め、意を決して紳士たちの前に飛び出した。
「あのっ。」
 紳士たちの視線が、一斉にカジュに集まる。再び襲い来る混乱と圧迫。
 だが、
 ――負けない。
セレン魔法学園の、先生がたですよね。」
 紳士のひとりが眉をひそめ、あからさまな不快を顔に浮かべた。次いで発せられた声は硬質で、言葉の冷淡さをいや増すかに思われた。
「何の用だ?」
 ムカついた。
 物乞いが何かと思われたに違いない。いずれにせよ、こんなチビの子供とまともに会話をする気はないのだ。お偉い先生がたとしては。
 そう気づいた途端、不思議なことに、身体の芯から力が湧いてきた。さっきまでの怯えはどこかに消えてしまい、いつもどおりのカジュ・ジブリールが彼女の心を支配した。
 ――ボクは天才美少女術士。怯む理由はどこにもない。
 カジュはしっかと足を踏ん張り、普段と全く変わらない不遜極まる声色で、叩きつけるようにこう言った。
「ボクを学会に入れてください。」



勇者の後始末人
第10話“焦がし砂糖は甘くて苦い。”

黒鐵の乙女 2

 患者、すなわち男爵令嬢クイッサは、塔の上に匿われていた。格子付きの重い扉に錠まで下ろされ、許しなくば寝床から起きる上がることさえできない、この状況を“匿う”と呼ぶのなら。
 クイッサには、まるで生気がなかった。見知らぬ狩人たちが部屋に上がり込んでも、眉一つ動かさぬ。寝床で仰向けになったまま、ただじっと天井を眺めているだけだ。まるで物言わぬ彫刻のように。
「クイッサよ。目覚めているな」
 男爵が使用人に命令を下すように言うと、娘は僅かに唇を開いた。はい、と、蚊の鳴くような声がそこから漏れる。外の穏やかな夜風の音にさえ掻き消されかねない声量。男爵は苛立ち、聞こえがしに舌を打つ。
「見るがいい。このありさまだ」
 男爵の手が、乱暴に寝具をめくり上げ、クイッサの身体を狩人たちの目に晒した。
 緋女は息を飲み、ヴィッシュは眉間に皺を寄せ、カジュは微動だにしなかった。三者を三様に狼狽させたものは、黒い鋼鉄の鎧――の如く変質した、クイッサの皮膚であった。
 透き通るような白い肌は、右の肩口から左の脇腹にかけて、何層にも重なった鱗のような組織に覆われている。触れてみると、質感は紛れもなく鋼のそれ。鉄鱗の根本を見れば、確かに肌から直接生えているらしい。
「発病は二月前、婚礼を目前に控えた日のことだった」
 と説明する男爵の声には、深い疲れの響きが混ざり込んでいた。
「花嫁衣裳の試着を手伝った侍女が異変に気付いた。ひとまず新郎側には急病と伝え、国中の名医や呪い師をあたってみたが、みな匙を投げた。剥ぎ取ろうにも並の刃物では歯が立たぬし、無理にやるとひどく痛がる――それに、剥いでもまた生えてくるのだよ」
 その説明の間も、ヴィッシュは手早く病状を確認していった。鱗の一枚を撫で、拳で軽く叩いてみて、
「何か感じますか?」
 いいえ、と、例の囁き声。
 ヴィッシュは頷き、後ろのカジュに目を遣った。
「やってくれ」
「ほいほい。」
 カジュは、齢十にしてこの世のあらゆる魔術を修めた、真の天才である。彼女は患者の前に立つと、小ぶりな短剣を鞘から抜いた。その刃へ息を吹きかけるようにして呪文を唱えたとたん、短剣が淡い青の光を放ちだす。
 一体何をする気であろう? 男爵は不意に不安を覚え、カジュに歩み寄らんとする。が、その前をヴィッシュの腕が塞いだ。
「お任せを」
 その声を合図に、カジュは短剣を患者の胸に突き立てた。
 耳障りな金属音と赤い火花が走り、それと同時に、患者の身体から黒いものが泉の如く吹き上がる。鎧だ。令嬢クイッサの肌を覆っていた鎧が、突如として伸び上がり、黒い触手となって辺りを無差別に襲い始めたのだ。
 触手の一本が天井に突き立つ。また一本が扉を打ち砕く。そして男爵の脳天を貫かんとした一本は、その直前、音もなく閃いた白刃によって斬り落とされた。
 女剣士緋女の、正確無比な一太刀によってだ。
 触手たちは、まるで苦痛を感じるかのようにのたうち回り、みるみるうちに収縮して、元の鎧に戻ってしまった。あとに残されたのは静寂と、あちこち破壊された部屋。冷や汗を浮かべた男爵に、他人事のように涼しい顔をしたクイッサ。あとは、落ち着き払った狩人たち。
 緋女は、足元に転がる触手の切れ端を無造作に拾い上げ、カジュに放った。受け取ったカジュも、その奇妙な戦利品を掲げ、降ろし、裏返し、じっくりと舐めるように観察して、ついには小さく溜息をつく。
「どうだ?」
 ヴィッシュに問われ、カジュは首を横に振った。
「フォーマント反応陽性。扇状紋あり。文句なしに|浮遊術式《フロートエンチャント》だね。」
「なんだそれは?」
 男爵は高圧的に尋ねたが、それに圧し潰されるようなカジュではない。小馬鹿にしたような冷たい目線を返し、
「早い話が呪いかな。」
「誰が娘に呪いなど!」
「誰でもないよ。これは戦時中に魔王軍がよく使ってた防御の術。術式を構築した後、何らかの理由――術士が死ぬとか――で、発動されないままになったのが、行き場を失ってそこらへんをふよふよしてたわけっす。それがたまたまこの人を対象に――。」
「分かった、もうよい。治るのか?」
「けっこう深く|魂《マナソース》と癒着してるからね……。
 |五《ウー》本|四《スー》本マックス|二半《リャンハン》かなー。」
 必要な時間は普通で5日、急ぎで4日、死ぬ気で徹夜作業すれば最短2日半、の意味の隠語であるが、無論男爵には通じない。ヴィッシュに伝えるために言ったことだ。それを聞いたヴィッシュはさらりと男爵に持ちかけた。
「7日でなんとかしてみましょう」
「そんなにかかるのか……」
「魔術の儀式は慎重を要しますから」
 

黒鐵の乙女(仮) 1

 男爵令嬢の婚礼が先延ばしになったことは、ほとんど口端に上らなかった。手段を選ばぬ口止め工作が奏功したものとみえる。花嫁は療養の名目で家を追い出され、その行き先は誰にも知らされなかった。秘密は守られたのだ――鋼鉄の甲冑の如き堅牢さで。邪宗の秘儀めいて密やかに。
 それから50日余りが過ぎたとある新月の晩。墨を流したような暗闇の中、三人の狩人たちが男爵の呼び出しを受けた。迎えの馬車に乗り、向かった先は街外れの古塔であった。|地元《ところ》の農夫どもも気味悪がって近寄らぬ、古ハンザ時代の遺跡だ。
 塔の下で、コルチェロ男爵は待っていた。従者のひとりもなく、手ずから松明を掲げ持ち、いささかくたびれた外套に全身を隠すようにして立っていた。狩人たちが馬車を降りると、男爵の針山のような口ひげが神経質に震えた。この乏しい灯りのもとでも、彼の顔に浮かんだ失望の色は、ありありと見てとれた。
「女と子供だと」
 魔物狩りの狩人――“勇者の後始末人”ヴィッシュは肩をすくめた。彼の後ろに続く“女”と“子供”――緋女とカジュの不機嫌が、背中にビリビリと感じられる。頼むから暴れてくれるなよ、とヴィッシュは心の中で祈った。彼女らがひとたびその気になれば、この塔くらいは軽く消し飛ぶ。
 これ以上男爵が余計なことを言わないうちにと、ヴィッシュは一歩進み出て、慇懃な礼を執った。異国風でこそあれ、作法にかなった正式の礼だ。その仕草に教養の残り香を嗅ぎ取ったのか、男爵は僅かに気配を和らげた。
「貴公が狩人か? シュヴェーアあたりの出と見えるが?」
「ヴィッシュ・クルツ・オースティン、帝国では従七位でした。昔の話ですがね。
 それで、ご息女は?」
 男爵は一瞬のためらいの後、塔の門を指し示した。
「案内しよう。《《患者》》はこちらだ」

ぬいぐるみ達とハゲ頭(ボツ原稿)

"S.o.S.;The Origins' World Tale"
EPISODE in 1313 #A03"Stuffies and a Baldie"/The Sword of Wish


 勇者の後始末人、“叩き潰す”ボーマン。
 |三十二貫目《120kg》|六尺五寸《197cm》、その筋骨の隆々たること巌の如し。浅黒い肌はさながら鋼鉄、厳めしい禿頭はまさしく鬼神。恐るべき膂力から繰り出される鉄槌は、|象獅子《ベヒモス》さえも一撃のもとに粉砕するという。
 道行けば人は恐れて脇へ退き、子供は泣いて助けを求め、犬は怯えて吠え掛かる。そんな時も、寡黙なるボーマンは決して口を開かない。視線を動かし、ひと睨み。それだけで辺りは凍り付き、飛ぶ鳥は落ち、吹く風は止み、波さえ息を潜めて静まり返る。
 |大物狩り《ジャイアント・キリング》を得意とする後始末人は、協会にも数少ない。彼はその中のひとり。“火の玉”ロレッタ、“万策の”ヴィッシュ、“鬼薙刀”ポワーニャらと並ぶ稀有な人材。屈強を絵に描いたが如き鋼の戦士。
 それが彼、ボーマンなのである。
 しかし、彼にはもうひとつの顔があった。
 仲間たちの誰も知らない、裏の顔が――

 その日、ボーマンは要塞通りを訪れた。
 人目を避けて裏道に潜り込み、立ち並ぶ家々の狭間を縫い進む。やがて、陽光の届かぬ湿った袋小路に辿り着くと、ある店の裏口を叩いた。扉の中に、人の気配が現れる。
「誰だい」
「オレだ」
 蝶番を不気味に軋ませながら戸が開く。ボーマンは、大きな身体を捩じ込むようにして店に入った。
 中は暗く、辺りを照らすものは心細いランプの灯りひとつきり。店主の皺顔がその中にぼうと浮かび上がる。赤い灯火を浴びながら、なおもその顔は青ざめて見える。
「また新しい“商品”かい、先生」
 ボーマンは僅かに顔をしかめた。
「先生はよせ」
「だが先生は先生さ」
 言って店主は、音程の狂った弦楽のように笑った。
 耳障りな声を気にせぬように努めながら、ボーマンは持ち込んだ包を机に載せた。油紙で覆った上から頑丈ななめし革でくるんだ、実に丁寧な梱包であった。
 店主の骨筋張った指が伸びる。愛撫するかのように包を撫で回し、慎重に紐を解いていく――
 中から現れたもの。
 それは、まことに愛らしい、栗色の毛をした、クマのぬいぐるみ、であった。
「素晴らしい……!」
 店主が唸る。感動に唇を震わせながら。
「超かわいい……! これなら絶対売れますよ、ねえ先生!」
 きらきらと少女のように目を輝かせる彼は、「人形なら何でも揃う」の謳い文句でおなじみ、“トマス人形店”7代目店主セオドア・トマス。
 机の上にちょこんと座っているのは、ボーマンの手になる新作ぬいぐるみ“クマだベアー3號”。
 そう。
 屈強の狩人“叩き潰す”ボーマン、その正体は――

 今、巷でウワサの大人気ぬいぐるみ作家、「きらりん☆ピョン太」先生だったのである!



勇者の後始末人
第3話 “ぬいぐるみ達とハゲ頭”



 トマス人形店の陳列棚ときたら、詰め込みすぎて弾け飛んだオモチャ箱のようだ。
 上から下まで、右から左まで、ところ狭しと並べられた人形の数々。女児向けの人形は、手頃な量産品から職人の手になる一品ものの最高級品まで。祭祀用人形も季節ごとに各種品揃え。変わったところでは、歴史上の偉人を象った塑像、彫像の類もある――特に人気の題材は、“異界の英雄セレン”や“白翼の戦姫”、“勇者ソールと仲間たち”。
 いずれも趣向を凝らした逸品ばかり。眺めるだけでも目に楽しい。
 |第2ベンズバレン《このまち》の支店は小ぢんまりとした佇まいだが、王都の本店は建国以来100年続く老舗、堂々たる|大店《おおだな》である。「人形なら何でも揃う」の謳い文句は伊達ではない。
 その魅力的な人形たちを、じっと見つめている女がひとり。
 肉食獣めいた肉体をちょこんと丸め、目は子供のように輝かせている。物騒な太刀は脇に捨て置かれ、その手は人形を手に取りたくてウズウズとわななく。男どもを魅了してやまない美貌も、ポカンと口を開けっぴろげていては台無しだ。
 緋女。最近この街に住み着いた、凄腕の女剣士である。
 緋女は、ここ数日というもの、暇さえあればトマス人形店に通っていた。というのも、あるぬいぐるみに心を奪われてしまったから、であった。
 栗色の毛をしたクマ。短い手足を投げ出すようにして、やる気なく棚に座っている。その顔は寂しげというか、超然としているというか、何か、人生に疲れた中年の男を思わせる絶妙な表情をしていて、この胸に抱き締めたいという衝動を駆り立てる。そのうえ、どこか懐かしい匂いがするのだ。子供のころ大切にしていたぬいぐるみに似た、胸を締め付けるような匂い――
 横には値札が立ててあったが、緋女は字が読めない。そこで、奥で商品の手入れをしている店主のほうへ、ぐるりと顔を向けた。
「ねー、これいくらー?」
「お客さん、昨日も一昨日も訊いたじゃないの」
 店主は苦笑しながらも教えてくれた。その口から出たのは、目玉が飛び出るような金額であった。
 緋女は懐から小さな革袋を取り出し、中を見て、溜息を吐く。財布には銀貨が7枚しかない。ガキの小遣いではあるまいに。
「やっぱ足んねェなァ……」
「いいモノだからねえ。手間もかかってるし、職人の腕もいい。
 まあ、見る目があるよ、お客さん」
「稼いで来るかァ……」
 名残惜しいが、どうにもならない。緋女はしぶしぶ立ち上がり、店を後にした。
 緋女は勇者の後始末人、早い話が害獣駆除の狩人である。といっても、たまたま魔獣が湧いたところに出くわすことなど滅多にない。そこで彼等は互助的な同業者組織、後始末人協会を作り、魔獣の出現情報の交換と仕事の分配を行っている。仕事を回して欲しいなら、協会に相談するのが最も良い。
 が、どうやったら協会に接触できるのか、緋女はぜんぜん知らない。
 その時ふと頭に浮かんだのは、最近ねぐらにしている家の持ち主、ヴィッシュの顔であった。彼も後始末人、それもこの街で10年働いているベテランだ。
 ――あいつなら、なんとかしてくれんだろ。
 と、実にざっくりした見積もりを立てて、意気揚々、緋女は家路を急いだ。
 その途中でのことだった。
 通りには多くの通行人がいたが、そのうちのひとりとすれ違うや、緋女は弾かれたように振り返った。
 ――この匂いは!?
 緋女の嗅覚は、常人に数倍する。その鼻が嗅ぎつけたのだ、ただならぬ匂いを。
 衝動的に緋女は踵を返し、匂いの後をつけ始めた。今や、彼女の目は獰猛な猟犬のそれであった。

 トマス人形店からの帰り道、ボーマンは極めて上機嫌であった。
 今日の新作ぬいぐるみが、店主の好評を得たからだ――表情の乏しい彼のこと、傍目には、いつも通りのしかめっ面にしか見えなかったろうが。それでも、足取りは確かに軽かったし、脈拍は興奮に跳ねまわるかのようであった。
 ボーマンがぬいぐるみ作りを始めて5年になるが、その間、彼は自分の趣味をひた隠しに隠してきた。知っているのは僅かな取引業者のみ。彼らにも徹底して秘密厳守を頼み込み、取引に訪れる際も人目を気にして裏口を使うありさま。
 なにしろ、彼は狩人である。屈強の戦士である。そんな彼が、休日には愛らしいぬいぐるみと戯れているなど、仲間たちに知られたらどんな事になるか。顔を合わすたびにからかわれるのは目に見えている。
 彼は、田舎の少し裕福な農家に、末子として生を受けた。ただひとりの兄は年が離れすぎていたため、遊び相手といえばもっぱら3人の姉たちであった。その影響だろうか、ボーマンは幼少よりままごとや裁縫に親しみ、人形やぬいぐるみの類を好むようになったのだった。
 幼い頃はまだよかったが、思春期を迎え、体が山のように成長していくと、周囲は奇異の目で彼を見るようになってしまった。父親譲りの恵まれた体格が災いした。近所の知人たちは眉をひそめたものだ――あんな大きな体をして、人形なんかいじっている。気味が悪い、と。
 止むことのない陰口に打ちのめされたボーマンは、人前で人形と戯れることをやめた。それでも小さな農村のこと、一度ついてしまったイメージはいつまでも住人たちの記憶に残り続けた。
 いたたまれなくなったボーマンは、成人を迎えたその日、ついに故郷を離れたのだった。
 以来十有余年。故郷にいたころの反省から、彼は自分の趣味を他人に語らない男になった。その結果、今度は、寡黙で何を考えているのか分からない男、という烙印を押されることになった。同好の士を持たないという仄かな孤独は、彼をずっと苦しめていたが、耐えきれぬほどではなかった。
 そんな彼が、自分の手でぬいぐるみを作るという新たな趣味を見出したのだ。作品を試しに人形店に持ち込んでみると――これが、思いの他の評価を受けた。売れたのだ。自分の趣味が誰かに認められるのだと知ったボーマンの、喜びいかばかりか。
 そうしたわけで、納品後のボーマンは、並々ならぬ高揚を覚えていたのである。
 そのせいだろうか、ボーマンは全く気付かなかった。少し離れて後をつけてくる女がいることに。下宿先の金物屋に帰り着き、店主の老婆に挨拶して部屋へ上がろうか、としたその時。
「あのっ!」
 女が声をかけてきた。振り返ってボーマンはぎょっとする。この女、知っている。緋女。最近“万策の”ヴィッシュのところで仕事を始めた、新人の後始末人だ。戸惑ったボーマンが岩のように黙っていると、緋女は、ずい、と一歩進み出て、
「“きらりん☆ピョン太”先生っすよねっ!?」
 脳天を鉄槌でぶん殴られたかのような衝撃。
 眩暈を覚えるボーマンに、緋女はさらに畳みかけた。
「ファンです! サインください!!」
 恭しく厚紙差し出す緋女の目は、さながら、エサを前にして尻尾振り回す犬の如し、であった。

刃の緋女 8

(状況が飛んでますが気にしないでください。ここまでのぶん大幅書き直ししますので、その続きからです)



 ずぶ濡れで、夜風に震え、疲れ果てた身体を引きずり、ようやく家に帰った時には、とうに夜半を過ぎていた。もう夜明けまでさほどの時間は残されていまい。倒れ込むように玄関に転がり込むと、今の机に小包が届いているのが見えた。中は食べ物と水筒のようだ。簡単なメッセージの書かれた木札から、コバヤシの心遣いであると分かった。
 3階の部屋では、朝に出かけた時のまま、緋女が静かに横たわっていて――床に胡座をかいたカジュが、淡い光を放つ水晶の上に、一心不乱に紋様を描き続けていた。せわしなく動き回る瞳は、獲物を追う猫のそれを思わせる。
「ただいま」
「んー。」
 残る力を振り絞るようにして声をかければ、鼻息そのもののような返事が返ってくる。疲れているのは、お互い様のようだった。
「緋女はどうだ」
「んー……。」
「そうか……」
 ヴィッシュはどっかと腰を下ろし、下から持ってきた包みを開く。
「タチアナさんが弁当作ってくれた……食うか?」
「ん。」
 サンドイッチを口元に持って行くと、カジュはヴィッシュの手から食べた。猛然と食べた。がぶり、がぶり、かじり、噛んで、次に差し出された水筒に口をつけ、喉を鳴らして飲み下した。
 それからヴィッシュは自分でも食べた。舌が疲れで痺れるようで、味はろくに分からなかったが、とにかく身体が飢えていた。差し入れは見る間に食い尽くされていった。
 人心地つくと、ヴィッシュは膝立ちになって、緋女の顔を覗き込んだ。安らかな寝顔が、たまらなく愛おしく思えた。衝動的に手を伸ばし、髪と頬を撫で、指に絡む甘やかな感触で我に返った。無礼なことをしてしまった。昏睡している女性に指を触れるなど――
 部屋の奥へのそのそと退いて、ヴィッシュは壁に背をつけ、横になった。
「悪いが、少し眠るぜ」
「んー。」
「夜が明けたら起こしてくれ……」
「ん。」
 数分と待たず、彼は眠りに落ちた。
 やがて窓から朝日が差し込み始め、カジュは初めて彼の方に目を向けたが、その頃にはもう、起こすまでもなくヴィッシュの姿は消えていた。

刃の緋女 7

 今や一国一城の主となったセコイヤ・コスイネンは、でっぷりと太った見苦しい身体を上下に弾ませながら、落ち着きなく屋敷の中をうろついていた。苛立ちを隠すことはできなかった。思い通りにことが運ばない。彼の類まれな力を持ってしても。
 彼の旧主ボダクルは、後始末人だかいうならず者の働きによって虜囚となった。その財産は国家によって全て没収され、大商家の支配人として幅を利かせていたセコイヤも、一夜にして寒空へ放り出されたのだ。
 しかし、そこから先が彼の才覚の優れた所である。路頭に迷っていたところに〈企業〉の使いが現れ、支援を申し出たのだ。おかげで彼は不死鳥の如く蘇り、かつてボダクルがやっていた商売を丸ごと受け継ぐことができた。すなわち、〈企業〉の尖兵として違法な魔獣、薬品、呪具、その他諸々を扱う商売を。
 全て、彼が有能なればこそである(単なる幸運、あるいは〈企業〉に体よく利用されている――などとは夢にも思わない。なぜなら彼は疑う余地もなく素晴らしい人間であるから)。にも関わらず、今、突如として障害が彼の前を塞いでしまった。後始末人ヴィッシュ。何度殺しても殺し足りない仇敵。彼を絶望の底に叩き落とした、この世に在るべからざる邪悪だ。
 彼はこうした荒事の専門家を雇い入れ、その男に一任して後始末人の抹殺を画策した。作戦の第一段階は図に当たり、うきうきと第二段階に取り掛かったところで、使えない部下どもが失敗した。たかがひとりの男を相手に、三人係で闇討ちを仕掛け、そのくせ負けて逃げ帰ってきたのだ。
「使えん! 使えんやつだなあ!」
 悪しざまに罵るセコイヤの背後で、大きな寝椅子にゆったりと横たわっていた男がひとり、到底愉快とは言い難い冷笑を浮かべた。セコイヤがそれを見咎めて、怒りとも怯えとも付かない視線を投げる。
「なんです、先生……」
「討ち手の数をケチるからだよ、スポンサー。私に任せておけば良かったのだ」
 この男、セコイヤが雇った、先述の“専門家”である。痩せた魔族の男で、蜥蜴を思わせる丸い不気味な目をしている。玄武岩色のごわついた肌もまた、重なり合った固い鱗さながらであった。
 名はギュミズゴーグ。裏ではそれなりに名の知れた、荒事の請負人である。
 ギュミズゴーグはククと笑いを含ませ、
「相手は腕のいい剣士なんだろう。半素人の3人くらい、そりゃああしらわれるだろうよ。私の手配したやつであれば――」
「先生、もう随分予算がオーバーしてるのですよ。これ以上は……」
「これ以上、かさむ事態になったと気付かないかね?」
 セコイヤは眉をひそめた。ギュミズゴーグが億劫そうに立ち上がる。
「尾行されていたよ、先の刺客は。私が相手ならそうするね」
「では?」
「あなたが黒幕と知られたとみていい。儀式の場所まで悟られたかもな」
「……大変だ!」
 慌ててセコイヤは部屋を飛び出した。どこへ行く気だろう。儀式場までだろうか。彼が顔を出したところで何が解決するわけでもあるまいが、とにかくどこかへ行って誰かを怒鳴りつけていなければ、不安に耐えられないのであろう。
 ギュミズゴーグは小さく鼻を鳴らした。今回のスポンサーは愚鈍な男だ。金が惜しいなら、復讐など捨て置いて商売に精を出していればよい。金にならないことに首を突っ込みながら、一方で手持ちの資金が減るのを怖がる。そんな半端なことだから、敵に急所の所在を知られることになる。
「ま……場所を知られたところで、私の備えは万全だがね」

 万全の備えだ。これはまずい。
 ヴィッシュは件の倉庫に向かい、隣の屋根の上から様子を窺ってみれば、その警戒ぶりは並大抵のものではなかった。立ち並んだ大きな倉庫三軒が、周囲を20名近い見張りに巡回されている。三軒のうちどれで儀式が行われているのか外からでは伺い知れず、中を確かめようにも、壁には明り取りの小窓があるばかり。侵入口になりそうなのはせいぜい天井に空いた空気抜きの短い煙突程度だが、あんなところから入れるのは――ヨブくらいのものだ。
「兄ィ、見てきましたよう」
 ひそひそと囁きながら、ヨブが音もなく戻ってきた。ふたり揃って、見つからないところへ頭を引っ込める。
「どうでした?」
「いやあーヤバいっす。なんとびっくり象獅子(ベヒモス)が3匹」
 う、と、喉の奥から呻きが漏れた。象獅子(ベヒモス)といえば、数ある魔獣の中でもとびきり厄介な大物だ。格闘戦の能力だけなら鱗の竜(ヴルム)にさえ匹敵する。これを仕留められる狩人は、第2ベンズバレンにも片手で数えるほどしかいない。
 相手の名を聞いた時点で魔獣が出てくることは覚悟していたが、まさか象獅子を3体とは。
「戦争でもする気かよ……くそっ」
「どうします、兄ィ」
 再び頭をもたげた焦りに頭を乱暴に掻き毟り、ヴィッシュは腹の底に呼気を詰め込んだ。
 ――どうする?
   どうすれば勝てる……緋女を救えるんだ?